大判例

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札幌高等裁判所函館支部 昭和25年(う)180号 判決

「刑法第二百七条後段には、二人以上にて暴行を加え人を傷害した場合に於て、その傷害を生ぜしめた者を知ること能わざるときは、共同者に非ずと雖も共犯の例による。」と規定されているから、この規定が適用される為には、数人の意思の連絡なくして、時間的場所的に相近接して同一人に暴行を為したこと、その結果その者に傷害を生ぜしめたこと、しかもその傷害は何人の暴行に因るか不明であることを要件とする。従つて数人中何人の暴行に因つて傷害を生じたか明らかな場合は勿論、その傷害が数人中特定人の暴行に因るものと認めることの出来ない場合に於ても、その特定人に対しては右の規定は適用されないものと解すべきである。よつて被告人が被害者本間和雄の腰背部、右脛骨部、頭部、及び右示指に暴行を為した事実はない、との所論につき、原審で取調べた証拠を精査して審按すると被告人の検察事務官に対する供述調書には、自分は、昭和二十五年四月三十日の午前中平手と拳固で本間和雄の顔面を五、六回を殴打した旨、被告人に対する裁判官馬場励の審判調書には、自分は、同日午前中、平手で右本間の顔を五回位殴つた旨、被告人の司法警察員に対する第一回供述調書には、自分は同日午前中平手と拳固で右本間の顔と頭を五、六回殴り、その後本間を正座させて大腿部を自分の両脚で二、三回踏んだ、同日就寝後浜岡がトンコツ(正座させて膝の上を踏むこと)をやつたが、自分もその後で、本間を殴るつもりで本間が動かないように本間と平塚の手と手足を縛つたが、音が聴えると悪いと思つて殴らなかつた旨の各供述記載があり、爾余の各証拠によるも、被告人が原審相被告人等と共に右本間に暴行を加えた箇所は、頭部、顔面部、大腿部、手及び足であつて、腰背部及び右指示に暴行を加えたことを認むることは出来ない。然して右二箇の部分に生じた傷害中右示指のものは、被告人等が本件、暴行を為した結果生じたことは記録上明らかであるが、何人の暴行に因るかは、全く不明であるから、共同暴行者の一人として、被告人もその罪責を負わなければならないことは前示規定に照らし当然である。しかし、腰背部に対しては、原審相被告人浜岡勉渡部保等が暴行を加えたことは、右浜岡及び原審相被告人平塚一男の検察事務官に対する各供述調書の記載によつて明らかであるから、この部分につき、暴行を加えたことを認め得ない被告人に於て、共同傷害の責を負うべき筋合のものではない。

ところで、原判決(一)に「その他に」とあるのは所論の部分を指すものと解すべきで、理由に不備ありとはいうことが出来ないけれども、上来説示の通の該部分の中腰背部に対しては、被告人が暴行を加えたことを認め得ないに拘らず、暴行を加えたものと認定して、この部分の傷害についても、被告人に共同の罪責を負わせたものであつて、之は畢竟原判決が証拠の選択を誤り、延いて事実を誤認したことによるものというの外はない。

又原審第三回公判調書中証人細野泰比湖の、右本間の本件傷害は二週間の安静加療を要するものと診断したとの供述記載に於ける二週間の期間は、傷害の全部が治癒するに要する期間で、各々の傷が一率に二週間の加療を必要とするという趣旨ではないことは明らかであるが、右事実の誤認に伴いその傷害の全治期間にも差異あるべきことは考え得らるるところである。しかしながら、被害者の身体数箇所に傷害を与えた本件に於て、右腰背部の一箇所の傷害につき、事実の誤認があつたからといつて、右の誤認が直ちに判決に影響を及ぼすこと明らかなものと論断することは出来ない。論旨は結局理由がない。

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